椎間板ヘルニア
●胸椎と腰椎の移行部での椎間板ヘルニアの症状
脊髄は脊椎(背骨)によって作られた脊柱管の中を通り、脳からの指令を全身に伝え、また末梢の感覚などの情報を脳に伝える働きをもちます。脊椎は椎間板によって強く連結されています。椎間板の構造を断面で見ると、中心部に髄核があり、その周囲を繊維輪が囲んでいます。椎間板は椎骨と椎骨の間にあり衝撃が直接脊髄に行かないよう緩衝材の役目をしています。椎間板はコラーゲンとゼラチン質からできた柔らかい隋核というものを丈夫で弾力性のある繊維状の組織が包んでいます。
通常は圧力がかかっても椎間板で衝撃を抑えることができますが非常に強い衝撃やねじられるような力には耐えられなくなります。また、老化により椎間板を包む線維組織の衰えで少しの衝撃にも耐えられなくなったりします。隋核は脊髄側に位置しており線維組織も脊髄側の方が薄くなっています。そのために骨が変形し椎間板の線維組織を突き破って隋核が飛び出してきます。その飛び出した隋核が脊髄にあたり痛みが生じ
ます。
事故や過度の運動などで強い衝撃を受けたり、老化も原因になります。


■ハンセン1型椎間板ヘルニア
ダックスフンド、シーズー、ウェルシュコーギー、ビーグル、コッカースパニエル、ペキニーズ、ラサアプソなどの軟骨異栄養性犬種では、2歳齢までに椎間板が変性を起こして脱水し、髄核のゼリー状の滑らかな構造は硬い乾酪状の物質に変化します。このような変化が起こると椎間板の衝撃吸収能が損なわれ、同時に繊維輪も弱くなります。このような状態の椎間板に負荷が加わると、破れた繊維輪から髄核が飛び出し、脊髄を圧迫します。ハンセン1型ヘルニアの多くは3〜6歳までの間に急性に発症します。

■ハンセン2型椎間板ヘルニア
ヨークシャーテリア、マルチーズ、パピヨン、プードル、ミニチュアピンシャー、ミニチュアシュナウザー、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、シベリアンハスキー、フラットコーテッドレトリバーなどの犬種では椎間板が加齢に伴い変性を起こし、過形成を起こした繊維輪が脊髄を圧迫します。このタイプの椎間板ヘルニアの多くは成犬から老犬に多く起こり、慢性的に経過し悪化します。
椎間板ヘルニアが犬で最も起こりやすい場所は胸椎と腰椎の移行部(背中)と頚椎(首)です。
■脊髄障害の重症度
椎間板ヘルニアで脊髄が圧迫されると様々な脊髄障害が出ます。この脊髄障害の発生の仕方には一定の順序があり、重症度によって5段階に分類されます。この脊髄障害の程度によって選択する治療法が違います。
1度
脊椎痛。ごく軽度の脊髄圧迫。機能障害は無いが、脊椎の痛みを生じている状態。一般的には背中を丸める姿勢をとることが多く、患者は運動したがらず、飼い主が背中を触ったときに痛がり明らかになる。身体検査の時、脊柱を押して検査することで痛みを確認できることが多い。
2度
不全麻痺、運動失調。後肢の力が弱くなり、ふらつきながら歩く。足先を引きずるように歩くために指先のつめが磨り減っていることが多い。足を裏返しにした状態で立っていることがある。
3度
完全麻痺、随意運動不能。後肢の動きは全く無くなり、前肢だけで進み、後肢は引きずるようになる。
4度
排尿不能。排尿が自分でできなくなり、膀胱には尿がたまった状態が続く。体が動いたり、吠えたりしたときに少しずつ尿がもれ出ることが多い。
5度
深部痛覚の消失。後肢の全ての感覚が無くなり、器具で後肢の指先などを強くはさんでも何も感じない。
■内科療法
内科療法は椎間板ヘルニアによる脊髄の圧迫が軽度な症例に対して選択する治療法です。
通常、この治療には2〜4週間の絶対安静が必要です。椎間板ヘルニアによる脊髄の圧迫は減圧されず、そのまま持続するため、脊髄機能の回復は外科療法に比べて時間がかかり、不完全なものです。
内科療法は、重症の脊髄障害患者、脊髄機能が悪化傾向にある患者、飼育環境や性格により絶対安静が不可能な患者では不向きです。もし絶対安静ができないなら、椎間板ヘルニアが悪化して症状が進行する危険性が高いため注意が必要です。抗炎症量のステロイド療法は患者の疼痛を抑える程度の働きをもちますが、脊髄機能を回復させる直接の作用はありません。適切な内科療法によって症状が一時的に改善しても、後に椎間板ヘルニアが再発し、脊髄障害は更に重症となる危険性があります。
■外科療法
全身麻酔をかけ、レントゲン脊髄造影法によって椎間板ヘルニアの発生部位を確認した後、片側椎弓切除術により脊髄を露出し、脊髄を圧迫している椎間板を取り除く方法です。同時に他の椎間板髄核を取り除き椎間板ヘルニアの再発を防ぐための予防的造窓術を実施することも可能です。
この研究結果は胸腰部椎間板ヘルニアの内科療法と外科療法によって治療された症例の治療の成功率と機能回復までにかかる期間の統計で、最も一般的に受け入れられている研究結果です。
脊椎痛を持つ症例(1度)や固有受容感覚反応の消失のみの臨床症状を持つ比較的軽度の脊髄障害(2度)において、内科療法、外科療法の双方で機能の回復が高い確率で得られています。
後肢の随意運動が低下、消失している症例(3度)をみると、内科療法、外科療法の双方で機能の回復がみられますが、外科的療法では1週間で回復が見られるのに対して、内科療法では回復に9週間かかることが示されています。
後肢の随意運動と排尿機能が消失した症例(4度)においては、外科療法では90%の症例で治療効果があるのに対して、内科療法では50%の症例にしか治療効果が得られません。深部痛覚を失った症例(5度)においては内科療法による治療効果はほとんど期待できません。また、外科療法を深部痛覚の消失から48時間以内に行った症例では50%で治療効果があったものの、それ以後に治療を開始した症例では6%にしか治療効果が得られないことが示されています。
このように椎間板ヘルニアが起こっても、深部痛覚を失う以前に獣医外科専門医による手術を行えば90〜95%の症例で再び歩行可能になることがはっきりしています。一方、深部痛覚を失った状態で48時間以上経過すると手術をしても、歩けるように回復する可能性は6%と低くなってしまいます。
1度
激しい頸部痛のために首をすくめて動くのをいやがるようになる。この痛みは背中の椎間板ヘルニアに比べてとても強く、悲鳴をあげて痛がることも少なくない。
2度
頸部椎間板ヘルニアの症状が進行すると後肢の障害に加えて前肢にも障害が起こり、フラフラ歩行、転倒、重症になると起き上がれなくなる。
3度
四肢の機能が失わる。重度の頸部脊髄障害により呼吸の機能が妨げられ急死することがある。
■内科療法
絶対安静により症状が改善することがあります。しかしながら激しい痛みが続くために手術が必要になることよくあります。
■外科療法
全身麻酔をかけ、レントゲン脊髄造影法によって椎間板ヘルニアの発生部位を確認した後、ベントラルスロット法により、脊髄を圧迫している椎間板を取り除く方法です。外科的治療により約90〜95%の症例で痛みの改善、四肢機能の回復が期待できます。同時に椎間板ヘルニアの再発を防ぐため、他の椎間板髄核を取り除く予防的造窓術を行うことも可能です。
●予防的造窓術
椎間板は第1〜第2頚椎間を除く全ての椎体間に存在します。このうち頸部椎間板ヘルニアの大部分が第2頚椎から第6頚椎の4つの椎間板で、胸腰部椎間板ヘルニアの約75%が第11胸椎から第2腰椎の4つの椎間板で発症します。椎間板ヘルニアの多くは、この好発部位の椎間板のうち一つがヘルニアを起こして発症します。これは一回目に起こった部位とは別の椎間板にヘルニアが起こるためにおきます。予防的造窓術は、椎間板ヘルニアの減圧手術時に、他の椎間板の髄核を取り除くことで椎間板ヘルニアの再発を予防するために実施する手術です。
資料・相川動物医療センター
住所
東京都新宿区西落合4-3-1 03-5988-7888
03-5988-7887

